こどもビジネススキル

イントロ 外資系企業での1コマ(2/3) 性格はなかなか変えられない

ミーティング中にもっと発言・意思表示をするようにとマネージャーから言われた僕は、次回からどんな発言をすればいいか考えていた。

 

(ミーティングが始まる時に元気な挨拶をするか。

 「元気ですか!元気があればなんでも・・・」 

いや、これは違うな。

プロジェクトについての質問、商品知識についての質問をするべきなんだろうけど、的を得たものでないとこっちの知識不足がばれちゃうから恥ずかしいな。

ミーティングの終わりに、確認をする形で質問でもしてみようかな。自分の発言で会議を締める。これかっこいいな。 ・・・うーん、偉い人達がいる中で最後に発言するだなんてできるわけないじゃん。

あー、わからない。何を発言すればいいか、わからない!!)

 

その日は何も答えが出ないまま終わった。

(明日はプロジェクトマネジメント研修だ。とりあえずそっちに集中しよう。発言については週末考えよう。)

 

翌日のプロジェクトマネジメント研修は、ただ聞いていればいいという研修ではなく、来た人達が色々課題を与えられて、問題を解く必要がある参加型の研修だった。

 

(あー、発表でさえ苦手なのに、それを英語でやらなきゃいけないなんて今日も憂鬱だ。)

暗い気分の中、研修が始まった。参加者はコの字型に座り、全部で15人。真ん中の空いているところに講師が立ち、プロジェクターの画面を巧みに利用しながら身振り手振りで語ってくれる。

研修が始まって早々、質問が来た。

講師 「この中で今度の週末、予定がある人?」

隣に座っていたヨーロッパ系のやつが口を開く。

ヨロ 「新しく買った車で、お台場の方に彼女とドライブに行くぜ」

(いやいやいや。完全にお前のプライベートだし。興味無いし。)

講師 「へー、いいね。どんな車買ったの?」

ヨロ 「〇〇の✕✕✕だ」

講師 「それはいい車だね。安全性能も抜群なやつじゃん。アメリカでも結構売れてるらしいよね。お台場はどこに?」

(あ、結構話を広げるんだ。)

ヨロ 「まだわからないんだ。何かおすすめある?」

斜め前のアメリカ人が口を挟む。

アメ 「夏休み限定でやってるイベントがあって、そこは楽しそうだぜ。まぁちょっと子供向けかもしれないが。迷路があったり、シューティングゲームがあったりと、うちの子供はとても楽しんでた。」

さらにアジア系の人が付け足す。

アジ 「海が見えて食事ができるすごいいいところがあるよ。えっと名前はね、、、なんだっけ。。」

笑顔で話を聞いていた講師が口を開いた。

講師 「オーケー、ありがとう。楽しそうな週末プランを聞かせてもらったね。詳細は休み時間に聞いてもらうとして、話を元に戻すよ。今度の週末、マイワイフが植物を置けるような棚を作ってくれというんだ・・・」

 

プロジェクトマネジメントから少し離れたテーマで研修が始まった。

この後、講師が週末に作らなくてはならないという棚の話を例題に、どんな棚を、誰が、いつまでに、どのように、予算いくらで、作るかについて、みんなで議論しながら進めていった。話の中心はもちろん講師だが、最初に発言したヨーロッパ系のやつと他の2人がいつも何らかしらのリアクションを取ってくれるので、研修の様子は終始和やかで、わからない質問を自分がする時もすごくしやすかった。そして1日コースのプロジェクトマネジメント研修が終わった。

 

振り返って考えていた。

(あー、今日の研修はなかなかためになったな。自分の身の回りの事に置きかえて、プロジェクトマネジメントを教えてくれたから、わかりやすかったな。言うなれば夏休みの宿題を終わらせる、の社会人版ってところだ。こういうのを中学生くらいで習えていたら、ためになったのにな。

そういえば、あのヨーロッパ系のやつ、すげえふざけた内容の発言やチャチャが多かったけど、結果的に雰囲気をよくして、講師がみんなをまとめるきっかけを与えてたなー。自分はああいうふざけた奴にはなれないけど、ああいう能力があったらみんなから好かれるし、喜ばれるんだろうな。

日本の授業というのは手を挙げて当たったら発言するのが普通だからなのかな。さっきみたいにみんなが自由に発言する授業形式に本当に慣れてないわ。あー、でもあの感じ。みんなの中心にいて、雰囲気をよくするキャラクターに自分も憧れるなぁ。

雰囲気をよくする感じかぁ。というか逆に、発言するだけその場の雰囲気って良くなるんじゃないかな。ふざけたな事をいうだけであんなに授業が盛り上がるんだったら、どんな発言だって絶対喜ばれるに違いない。

ん、待てよ。

なんでもない発言、堅苦しくないない発言。そうか!!発言することに身構えなくていいんだ!とりあえずなんでもいいから発言すればいいんだ。これなら新参者の僕にもできる可能性があるぞ!次回からのミーティングからこの気持ちで臨んでみれば、きっといつかちょうどいい発言ができるようになるぞ!よーし、これを取り入れてやってみよう!!)

 

なりたい自分像、やりたい事はなんとなく見つかったが、ここからが自分との戦いだった。

なかなか発言できない。

大縄跳びに入る時の要領と同じで、タイミングがつかめれば入れるんだけど、それがなかなか見つからない。

 

1ヶ月経った。

(まだまだ何も変わらない。)

 

6ヶ月経った。少しずつ慣れて来た。

(この調子でいければどんなに些細なことでも発言できそうだ。)

 

1年経った。

(まだまだ緊張する。いつ理想に近づけられるのだろう。。)

 

結局、臆せず発言できるようになったのは2年後くらいだった。性格はそんなに簡単に変わるわけではない事を思い知らされたのだった。